フィレンツェの女Aになるための入門書について
オタクってすげぇな、と思うことが多々ある。
まずスケジュールの調整力がちがう。
来年の予定を組み、遠征の宿をおさえ、時期によって陸路か空路かを選び、そしてそれをきちんと遂行する。しかも出先で急遽打ち上げとかオフ会とかに誘われても、それに参加してスケジュールを適宜変更する適応能力があるのだ。
これはなかなか稀有なスキルだと思う。だって過密スケジュールをこなしているようにみえる世の中の社長とか芸能人だって、あれは他人が管理してるわけじゃん。それをオタクは己ひとりでやってるんだからな……やっぱりちげぇよ……
それからとてつもなく勤勉。
たとえばフランス革命。この歴史の一大事件の発端からなりゆき、そしてどういう最後を迎えたか、況やその後のナポレオンまで理解してるのはヅカオタと一部の識者だけじゃなかろうか???
しかも我々はフランス革命を王家から、庶民から、そしてジャコバン党から学んでいるのだ。
ベルばらでバスティーユを学び、そっと身を引く愛もあることを知り、1789で若き革命家と農民たちのいのちの輝きを受け止め、そしてひかりふる路で革命後のどうともならない愛憎のうねりを呆然と見つめた。なんならスカピンでイギリス側の動きすら、愛革でギロチン送りになる人々のことすら知っている。
……フランス革命概論の優秀生徒か???いやむしろ一部の識者=ヅカオタなのでは????
とまぁこんな具合に、オタクは勤勉なのである。
配役が出たらその背景を知りたいと思い、時代考証をかさね、そこで起きたであろう事件に思いを馳せる。
この前なんか古代エジプトにいたと思ったら第二次世界大戦のパリにいたし、気がついたら天草に飛んでいた。オタクの知識はワールドワイドだ。
そして例に漏れず今回も、ルネサンスについて──とくにメディチ家について──学んでいる最中である。
いやもうはかどるはかどる。だってオタクなら絶対誰しも好きだった名家じゃないですか、メディチ家って。
オタクウケ世界三大名家はメディチ家、ロマノフ家、ボルジア家でしょ?????(あまりにも塩野七生)
というわけで、わたしが絶賛勉強中のテキストを一部ご紹介したいと思います!!!
堅苦しくなく読みやすくて、なおかつ宙組子の役が結構出てくるやつ。たぶん初日に間に合う分量のやつ。
もしメッチャ暇で暇で仕方ないわ~~~メディチ家のことはwikiりきったわ~~~ってときに、気が向いたら読んでみてください。
※いずれも小説
※主なキャストは登場率の高い順
「春の戴冠」辻 邦生(全4巻)
- 作者: 辻邦生
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/04/01
- メディア: 文庫
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【主なキャスト】
ボッティチェリ、ロレンツォ、ジュリアーノ、パッツィ、レオ(ダ・ヴィンチ)
【あらすじ】
古典学者の卵であるフェデリコは、華の都フィオレンツァに生まれた。フェデリコはアカデミアに通い、友人であるサンドロは工房を転々としながら、老コシモがおさめる美しく豪華なフィオレンツァの街を愛していた。
老コシモの死去後も、若く豪胆なロレンツォのもとで、フィオレンツァは未来永劫その「春」を謳歌すると思われた──けれど枢機卿の叛乱とジュリアーノの死、迫り来るナポリ軍とサヴォナローラの台頭により、フィオレンツァは暗雲立ち込める秋の街へと変わろうとしていた。
その数奇な運命と同じくして、サンドロもまた、美学のもつ魔力と己の理想にからめとられていく──
主人公の目を通して、画家の苦悩やフィオレンツァのもつ華やかさとその光が抱える薄暗い闇が描かれている歴史小説。
ダ・ヴィンチはあんまり出てこないけれど、とにかく当時のフィオレンツァの空気感を知りたい!!メディチ家の趨勢を感じたい!!ってときはこれです。絶対これ。
たくさん出版されているメディチ家概説みたいなものよりも、小説なのでよみやすい。日本人作家が書いているので、翻訳された独特の文章が苦手だわ……ってひとにもおすすめです。
ロレンツォ・デ・メディチとジュリアーノ・デ・メディチの華々しい兄弟の描写がま~~~たすばらしい!!!
この方の文章はすごくさらりとしていて美しい言葉選びなので、それがまたこの兄弟の若い溌剌とした空気にめっちゃあってる。このふたりならフィオレンツァも安泰だと思うわよ……でもね……パッツィ家がね……
あとジュリアーノは恋愛、ロレンツォは政治観(勘ともいう)が丁寧に描写されてるのがよい。
史実がどうかは別として、ジュリアーノとボッティチェリが同じ人間を崇拝して愛していたり、またその道ならぬ恋がフィオレンツァの豪奢な祭の裏道で暴かれたりしてね……これをずんちゃんとりくくんで想像したらたまらんやんけ……
そしてロレンツォのその慧眼、時勢のとらえかた、フィオレンツァを支配するに値する男っぷりもまじでよい(まじでよい)
パッツィ家の陰謀でのロレンツォの強さと強運っぷりが、三人称で描かれてるからまたすごい。主人公がメディチ家の人間ではないために、フィオレンツァの市民が彼をどうとらえていたか、がよくわかる。
これをキキちゃんがするの……????やばくない……???エジプトに引き続きフィレンツェの女Aがいっぱい誕生しない???
ただ難点としては、流れが緻密すぎて長いってとこかなぁ……
細かいがゆえにフィオレンツァのこともメディチ家のこともいっぱい得られるんだけど、やっぱり長い……なにせ1巻ではまだロレンツォもガキんちょだからね。ロレンツォ(少年)です(ちなみにパッツィ家の陰謀は3巻)
そしてボッティチェリが美学に悩むところは詩的で哲学めいてるので、苦手なひとは苦手かもしれない……
でもずんちゃんファンやりくくんファンにはぜひ読んでもらいたい!!!!!ふたりとも儚くて美しいから!!!
もっと簡単に読めてエンタメ性が高いのがいいな~~~ってひとは、次の小説を読んでください。
た、たぶんこれはめっちゃひとを選ぶ……だろうけど……
- 作者: 藤本ひとみ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/10
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 2回
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【主なキャスト】
ダ・ヴィンチ(またはアンジェラ)、ジュリアーノ、ロレンツォ、レオーネ(ロレンツォの従兄弟)、パッツィ、ヴェロッキオ、ボッティチェリ
【あらすじ】
床に臥せったダ・ヴィンチは、弟子に「小説を書く」と言う。彼の回顧録のなかでフィレンツェでの16年間が抜けていることに気づいた弟子は、それを書くのかと問うた。けれどダ・ヴィンチは「小説だ」という。
「フィレンツェでの思い出はあまりに美しく、罪深い……だからわたしは、ある少女の名をもって小説を書くのだ」と。
ルネサンスの華開くフィレンツェに、あるひとりの田舎少女──アンジェラがヴェロッキオの工房入りを果たした。彼女はボッティチェリと恋をし、ときに切磋琢磨しながら、その天賦の才能を磨きあげつつあった。
そしてあるとき、アンジェラは天使のように美しいジュリアーノに出会ってしまう。彼を絵にしたい。そう焦がれた少女は、その芸術の才能をもってメディチ家へと接近していく。
儚く清らかなジュリアーノ、そしてそれとは似ても似つかぬほど力強く、怜悧な兄・ロレンツォ。
華々しい兄弟には、けれど、ロレンツォとの権力争いに敗れたレオーネが操る教皇庁からの政治的な暗雲が立ち込めていた。
ジュリアーノに近づくことはまた、アンジェラもその闇に身を投じることを意味していた。
あらすじからお察しのとおり、アンジェラ=ダ・ヴィンチなので、まぁ……ある意味ソドムとゴモラ感はあります。これが読むひとを選ぶ理由。
でも読み込むうちにその違和感(「これまじでダ・ヴィンチ???!」みたいな)は消えていくので、大丈夫かな……わたしはとくに気になりませんでした。よくある話だし。
この小説の魅力は、なんといっても「パッツィ家の陰謀」がメインになっているエンタメっぷり。
正史がどうとかはこの際いい(!?)大体の大筋はあっているし、なによりこの陰謀をめぐるロレンツォとレオーネが最高なのだ!!!!
「異人たちの~」にはレオーネいないだろうけど、これが愛ちゃんだと思うとめっちゃやる気でる。わたしはこれが愛ちゃんだと思って当時読んでました。
ロレンツォに負け、修道院につながれていたレオーネがボルジア家に出会い、それから教皇にまで取り入るさまは見事。しかもパッツィ家の陰謀を経て、それからまたあの……いやもう読んで……ゾッとするほどかっこいいから!!!舞台写真買お!!!(?)
ま~~~た彼らふたりを取り巻くキャラもよい。
ロレンツォの腹心の部下であるアントニーナの冷徹な参謀っぷり、ロレンツォを崇拝する献身的なジュリアーノ、ロレンツォにさまざまな思いを抱きながら奔走するメディチ家の銀行家たち。
レオーネを利用しつつも利用され、メディチ家を追い込んでいく枢機卿とパッツィ家。ここでちょっとお間抜けなキャラがいっぱい出てくるけど、ぜんぶ池田理代子のおバカキャラで再生されるから愛しい。
わたしは「春の戴冠」を読んでからこっちにうつったので、正直ダ・ヴィ……アンジェラとボッティチェリの恋バナのとこはキャラ変かよ!!?と思ったのでそこらへんは微妙です。りくくんファンは絶対「春の戴冠」のほうが好きだと思う。
でもそれを補ってあまりあるほど、パッツィ家の陰謀にいたるまでの流れと暗殺当日のダイナミックで劇的な描写がすごい。
暗殺当日、ジュリアーノが死んでロレンツォが傷を負う。それからの陰謀に加担した者への猛追、フィレンツェ市民への扇動、逃げるレオーネ──
たった一日のうちに緊迫した展開が繰り広げられるので、映画を観てるみたいな感覚。
きっと「異人たちの~」でもひとつの舞台装置になるであろうこの事件だけを知りたかったら、全然こっちで大丈夫だと思います。
あとこの方は「ブルボンの封印」「ハプスブルクの宝剣」を書いたひとでもあるので、そういう意味でも田渕くんもしかしたら……と思わないでもない。田渕くんの描く政治劇が好きなので、もしこんな感じで進むなら最高だな……
以上二冊が、軽く読めてなおかつ初日までにテンアゲできる小説かなぁと思います。
正史かどうかなんか気にしちゃならねぇ。この世はエモさがすべてだ。その点でいうと、この二冊はエモい。
美しく儚い兄弟とフィレンツェを知りたいひとは「春の戴冠」、劇場型兄弟とキャラの濃いヅカ的フィレンツェを感じたいひとは「逆光のメディチ」をぜひご一読ください。
勤勉なオタクのみなさまの一助になれたなら幸甚です。
……あ~~~たのしみ!!!!!こうして考察してるときがいちばん楽しい!!!!!そして初日が開けたらまたいっぱい考察しちゃうんだろうなぁ……オタクの性だなぁ……
もちろん白鷺も考察しますよ。キキちゃんは陰陽師かな??狐かな??博雅みたいに人間でもいいよ~~~キキちゃんならなんでもいいよ~~~(本音)