18列46番で会いましょう

私に好きなだけキキちゃんの話をさせてくれ

約束された勝利の仮面

為政者は時として、その国そのものに喩えられる。
新聞の風刺画はいつだって支配者の顔を揶揄しているし、厄介なことではあるけれど、仮想敵として支配者の写真や胸像を毀すことだって多々ある。いつの時代もそれは変わらない。
さて、ところ変わって1478年、花の都フィレンツェ
この栄えある街の支配者はメディチ家──ロレンツォ・デ・メディチである。
若干20歳でメディチ家のすべてを受け継ぎ、そして操り、支配する男。
彼はまさしくフィレンツェそのものであった。フィレンツェを愛し、フィレンツェに愛された男。
生まれたときからすべてを約束され、そしてその約束を成し遂げるためには己さえ駒にする、類まれな才能と野心と幸運に恵まれた男。
人々は彼を愛し、彼を憎み、彼に憧れ、彼にとらわれる。
その理由もわからないではない。出自に裏打ちされた高貴な佇まい、なにも口にせずとも空間を支配する威光、一挙手一投足からにじみ出る自信。金も地位も名誉も、なにもかもが彼の足元に跪く。
そしてなにより──見た目がいいのだ。
はちゃめちゃに見た目がいい。底抜けに麗しい。
これが醜男なら、バチカンも放っておいただろう。けれど美しい。金も地位も名誉もある男が美しいなんて、そりゃあ宗教の危機だと思っても仕方がない。
そのうえさらに歌が上手い。
2,550人を前にして歌い上げるほどの声。あの瞬間、世界中の誰よりも一番強いスポットライトを浴びているのは彼なのだ。
バチカン聖歌隊をゆうに凌ぐ歌声なのだから、そりゃもうローマ教皇の心配はつきない。正直いってめちゃくちゃ分が悪い。


……途中から違うひとの話になっていやしないかって?いやいや、ひとの話は最後まで聞くものだ。
そう、ロレンツォ・デ・メディチ。彼はまさしく華々しいフィレンツェそのものであった。
そしてまたの名を、芹香斗亜という。


(盆が回って開幕)


ポスターの時点で、わたしの理性は警鐘を鳴らしていた。おい、これはやべぇやつだぞ。
完璧なEラインを強調するかのようにゆるくウェーブを描く長髪、何者をも傅かせるような怜悧な視線、そして真っ赤なお衣装。
もはや爆弾がダイナマイトを巻いて、そのうえショットガンを抱えながら突進してくるようなものだった。防ぎようがない。
防げないのなら、防がなければいいじゃない──いつかどこかで聞いたような、宝塚と帝劇が御用達のどこかの国の王妃さまみたいな天の声に突き動かされるまま、結局わたしは防御力ゼロでマイ初日に挑むこととなる。
そのあとすぐ、己の愚かさとバチカン市国が抱いた脅威を目の当たりにすることになるとは知らず──


しっかし異人たちのルネサンス、冒頭なかなかロレンツォ・デ・メディチ様が出てこない。焦らされている。とても焦らされている。
ソラカズキに「相手はあのロレンツォ様だぞ!?」とかうろたえられたり、真風さんに「帰ってロレンツォに伝えろ!」とか嫌悪感丸出しで呼び捨てされてる。
えっ……なんかちょっと予想と違って完全に嫌な奴なんじゃないの……???
地位も名誉もあって芹香斗亜の見た目をしている人間が嫌な奴に描かれているなんて……悪すぎる芹香斗亜にわたしは耐えられるのだろうか……??
この時点でわたしの心拍数は(違う意味で)爆上がりしていた。
じゅりちゃんのサライ──これがまた上手い~!!あの時代のフィレンツェを生きていそうな感じがとてもある──のかわいさや、短時間の間に二回もぶたれるレオナルド(うち一回は幼少期だけれど)に「ひぇっ……」と思いつつ、まんじりとすること早10分強。


唐突に肌がびりびりした。
暗転待ちの舞台から放たれる謎の気迫。これは来るな……と思ってオペラをにぎりしめた瞬間、「それ」はついに来た。


ロレンツォ・デ・メディチ&ジュリアーノ・デ・メディチご兄弟~~~!!!!(ガランガラン)
二名様ご案内です!!!!!!!はやくお通しして!!!!!
赤い!!!!かっこいい!!!!そして……赤い!!!!
しかもふたりとも長髪だしお衣装がお高そうでいらっしゃる……そしてとてもとても偉そう……マントの裏地の柄と生地の重たさが最高じゃん……


もう枢機卿になれないじゃん!!って怒るジュリアーノを片手でいなして、「メディチの男に坊主はつとまらん」ってあしらうロレンツォ様。
ちょっと……やだ……そのセリフの言い方の!!!!なんとお耽美なこと!!!!
メディチの男に坊主はつとまら↑ん」のこの「ら」でちょっと抜けるように声が高くなるところとか、そのあとの「女を抱く悦びを捨てるなど……」って「など……」の余韻が最高にセクシー。女を抱く悦びを知っている男の声だと思う(?)
教皇の機嫌など気にするな」
……いや気にするでしょ!!!!!
この時代のキリスト教圏の人々にとっては教会こそすべてであり、教皇こそトップオブトップなのだ。それをあっけらかんと「気にするな」って足蹴にできるのはロレンツォ様だけですよ。
ほら~~~ちょっとロレンツォ様~~~ずんちゃんキレちゃったじゃ~~~ん!!!謝んなよ~~~!!!


だが謝らない。なぜならロレンツォ・デ・メディチだから。
人並外れた才能と野心、そして幸運に恵まれた男は決して謝らないし振り返らないのだ。
ジュリアーノとの喧嘩(とも呼べない児戯のやりとり)からダ・ヴィンチの来訪まで、とくに場転らしい場転も、歌らしい歌もないのに、セリフと佇まいの端々から「ロレンツォ・デ・メディチであること」の凄みがビシビシと伝わってくるこの感じ……とてもすごいと思う……
ノーブルだけれど柔和すぎない。傲慢だけれど不遜すぎない。
この絶妙なバランス、キキちゃんが演じるからこそ醸し出されているのでは……と贔屓目ナシでも思う。思いません?わたしはメッチャ思った。
なんていうんだろう……下品すぎない強引さというか、成金めいていない高貴な傲慢さというか……
たとえば「神に仕える女も、強情な芸術家もすべて手に入れる(意訳)」って宣うセリフ、明らかにめちゃくちゃヒール役が言う言葉じゃないですか。すごい嫌味ったらしく言おうとすればどこまででも悪そうに言えるはず。
カテリーナに小鳥の隠喩で迫るところだって、いやらしい言い方がもっとできる。じっとりうっそりした、いやな色気を出した言い方が。
でもキキちゃんのロレンツォ様は「お遊び」の域を出ない、からりとした言い方をするのだ。
その陰湿さの微塵もない佇まい、完全に生まれながらの強者が醸し出す余裕と傲慢さがとても……とてもキキちゃんにしっくりくる……
金と地位にモノを言わせて欲しいがままにしてきたんじゃなくて、抗えない魅力をもってしてすべてのものを傅かせたんだろうなぁ。さも当然、みたいな。
いやそりゃ当然だよ。だって芹香斗亜だから……いま現在抗えない魅力をもってしてエジプトから筑波からフィレンツェまでを傅かせているよ……(?)


しかもレオナルドを焚きつけて、「ようやく野心に火がついたか」とか言ってにやっと笑うとこ!!!
ここが!!!最高に!!!いい!!!
レオナルドに才能を見出したロレンツォは、彼に幸運を与えて、仕上げとばかりに野心に火をつける。これこそTHEパトロンって感じがする。
道楽で金を出すだけではない、なにか別の楽しみを見出している=神がサイコロを振って気まぐれに遊んでいる、みたいなロレンツォ様、とってもすき。


そんなロレンツォ様のご機嫌をよそに、ずんジュリアーノはギラギラ煮えたぎっている。
この弟の愛憎がまたエモいんだなぁ~~~!!
ずんちゃんも気品と柔らかさで出来ているひとだと思っているので、それゆえに野心がいま一歩足りない感がすごく出てる。
しかしレオナルドに「才能がない」とか言われたり、みんなの前で童貞バラされたり、それはそれで結構散々なんだよな……かわいそうに……幸運にも恵まれず……
史実だとジュリアーノはロレンツォを崇拝し、尊敬したまま死ぬので、このルネサンスでのジュリアーノ像は新鮮でよかった!!
偉大な兄上を誇らしげに思い、ああなりたいと望んできたけれど、大人になったいまはちょっとだけ違う。「ロレンツォの弟」ではなく「ジュリアーノ」として生きたい。そんな野心がふつふつと芽生えていく。
兄を愛しているし偉大だと思っているけれど、決して兄にはなれない自分の立場や不甲斐なさに歯噛みしている雰囲気がとてもよかった。
でもジュリアーノのかわいそうなところは、「ジュリアーノ」として生きても「メディチ」からは逃れられない、ということに気づいていないところ。もしも「メディチ家のジュリアーノ」として生きる自我に芽生えていたら(史実はこれ)、きっとパッツィにも利用されずに済んだだろうに……
いやほんと、反抗期のタイミングがめちゃくちゃに悪かったのだ。野心はあれど、才能と幸運に恵まれないタイプ。


そんな物分りの悪い弟にうんざ……ヤキモキする兄上、これがまたかわいい。
スフォルツァ公のお嬢さんに見向きもしないジュリアーノを横目にとらえながら、スフォルツァ公のご機嫌をとる兄上の小芝居が!!かわいい!!
なんかこう……「いやいや照れてるだけですよ、すみませんねウチの弟が……」とか「お嬢様があまりにかわいらしくてきっと恥ずかしいのでしょう」「ウチの弟は奥手ですから」「ああそうだ、ウチの妻を紹介しましょう」とか細々と言ってるんだろうなぁと思うとすごくツボる。ロレンツォ様がちゃんと政治してる!!!
マスケラータの夜の小芝居は、その表情もよくわかるからよりツボい。
「(今夜こそはちゃんとお相手をしろよ、……なに?おい、振り払うな、ちゃんと娘を見ろ!……よし、よしよし、いい具合に……ほらスフォルツァ公、どうです、似合いのふたりでしょう……カテリーナ?おい、ジュリアーノ!)」みたいな(※脳内副音声)
眉を顰めたかと思ったら満足そうに頷いたり、とてもかわいい。凡庸な人間であるところのスフォルツァ公のご機嫌もちゃんと気にしてるところがとてもよい。それでこそメディチ家の当主である。


さて、さてさてそして、ついにロレンツォ・デ・メディチ様の例の場面がやってくる。
これまでのロレンツォは手にしたものに対する執着があまりなさそうだったけれど、この日は違った。カテリーナが恋を知った小娘みたいな顔をして門限を破るから、さすがのロレンツォもなにかに気づく。
カテリーナ=愛人=自らの権力に挑む何者かがいることに。この時点ではまだカテリーナを己のコレクションの一部としかとらえてなさそうなのがまた……
ここのロレンツォの表情と声の調子、もうとてもとても狂おしいほどすき。
カテリーナが「部屋に戻っても構わない?」っておずおず尋ねたら、「どうぞ」と言わんばかりにすっごいやさしく微笑んで安堵させてやるのに、次の瞬間にがらりと雰囲気を変えてくるのはまじでズルい。怖い。人心を手玉にとることに慣れている。
ここでキキちゃんとまどかちゃんの身長差が最高に活かされて、はちゃめちゃにエモい姿勢になるのがまた!!!よい!!!
下手から観たときのマントと長髪の垂れ下がり具合、それから挑むみたいにくっと顎をあげたEラインの美しさ。いやがるまどかちゃんの身体の反り具合もあいまって、めっちゃ麗しい。
まるで美しい絵画のようではないか!!!!マジマジのマジにはやくここの舞台写真をくれ。


そして畳みかけるように、これぞロレンツォ・デ・メディチと言わんばかりのクライマックスがいよいよお披露目される。
刮目せよ、その銀橋ド真ん中で2,550人を見下す芹香斗亜を!!!!!
ヒールにありがちな虚栄と虚勢にまみれたまがい物の傲慢さじゃなくて、天性の自信と肯定力と覚悟と帝王学を身につけている最強の男。それをありありと表す最高の支配者ソング。
それが「メディチの仮面」である。いやまぁ……「ラムセスの歌」に次ぐそのまんまな歌だけれど、中身が最高なのでタイトルは不問にする。
なにが最高ってもう……あの……プログラムの歌詞のところにいちいちふせんつけて説明したいくらいなんだけど、とにかく歌詞と曲調、そして芹香・キキ=斗亜様の表情が底抜けにエモい。ぜんぶいい。エモエモのエモ。
死因:ダンディズムにつづいて死因:見下しが誕生してしまう。あっ……見下死……なんでもないです……


少年の日にいたずらにかぶる仮面は
(幼少ロレンツォを想像して勝手に感極まる)
(父上の隣で誇らしげにしている幼少ロレンツォ様とてもかわいい)
わたしに呪いをかけた
(世間一般的に想像される呪いとはえらく裏腹な不遜な笑みじゃないですか??)
人生の勝者になれと
(ここで超スゴツヨライトを浴びるのがまた……強い)
(自家発光もあいまって煌めきがすごい)
(のびのびとした歌い上げが最of高)
(な~~~れと~~~ォ~~~!!!!!!!)
(目覚まし音にしたい)

愛と欲望、跪かせる メディチの仮面
(ここの!!!!!!!見下す!!!!視線と指先!!!!!)
(ほんと2階席で観てても地下349189階からロレンツォ様を見上げているような気分になる。カンダタかよ)

愛と憎しみ、抱いて眠る メディチの仮面
(憎しみも憧れも苛立ちも羨望もぜんぶ抱いて毎日を当たり前に過ごすロレンツォ様、まじで覇者の風格)
わたしを支配する わたし
(ここがエモみのハイライト)
メディチの呪いにかけられて心を生贄にして生きてもなお、そのなかに自我を見出して楽しむロレンツォ様がただただヤバい)
(以下略)


──ロレンツォ・デ・メディチ様a.k.a芹香斗亜のなにが凄まじいって、こんな歌を終始不敵な笑みを浮かべたまま歌い上げるところですよ!!!!!
カテリーナ=愛人が奪われようとしているときに二番手が歌う歌って、普通は「コンプレックス」「怒り」「幼少期のあれこれから拗れた黒歴史」「おれは這い上がるぜ」「チクショーッ」「母性を求める」「おれは凄いんだぞ」的要素がふんだんに散りばめられている気がする。偏見かもしれないけど、たぶん統計的に見たらこういうの多いと思う。
だからこの歌をもっと宝塚的にチェンジしたら、「幼いころからメディチ家としての教育ばかり受けてきた」「己を出すことを禁じられた」「心なんてない」「その代わりにすべてを手に入れた」「彼女こそはじめて見つけたわたしの心だ」「絶対にカテリーナを手放したくない」みたいな雰囲気になる。
じっとりとした嫉妬とレオナルドからの挑戦を受けて立つ、みたいな。破滅の雰囲気を孕ませながら、たぶん下手の壁をバンッて叩いて不敵に笑ったままセリ下がるとか、そういう……

でも、この歌は違う。
そんなありきたりな為政者の辛さなんてすべて踏み越えた、支配者としてはるか高みに佇む「狂気」を高らかに歌っている。
メディチ家として生まれたからには、己さえも駒にする。ロレンツォ・デ・メディチフィレンツェは同一であり、フィレンツェはロレンツォ・デ・メディチである──それをビシビシと伝える、すごい歌詞だと思う……
めっちゃかっこいいけど怖いし、でも惹かれるし、これぞ圧倒的覇者の風格。
史実を知っているから余計に、っていうのもあるかもしれないけれど、ジュリアーノもグイドもパッツィも確実に分が悪いよ……相手が強すぎる……
神の名を借りなければ目的を達成できない人間は、完全無欠に自分本位のロレンツォには勝てないよ……

でもこの最高ソング、ちょっとだけかわいいポイントがある。個人的にだけど。
「お前のあたたかい血が~」っておどろおどろしい歌詞を歌っているロレンツォ様の!!!!お袖~~~!!!
「わたしを支配するわたし」って笑うロレンツォ様の!!!お袖~~~!!!
ふわふわひらひらしたお袖がキキちゃんの頬をすべったりくすぐるたび、かわいい……ってきゅんとしてしまう。あのお袖が、お耽美なロレンツォ様のかわいいポイントを担っているんですね(ですねって言われても……)


そして物語は佳境に迫り、サンタ・クローツェ教会へと導かれた演者たち。
個人的に、ここのロレンツォ・デ・メディチは人間味あふれていて好きです。
レオナルドに剣を向けられた瞬間の「あァもう絶対に許さん」みたいな目を剥いた表情がとてもエモい……逆三白眼(?)……
パッツィはもちろんのことグイドのことだって別に信頼していたわけじゃない。敵に囲まれたなかで、ジュリアーノの死に錯乱するほど理性を失ったわけでもない。
けれど、自分がサイコロを振って遊んでいたはずのレオナルドに剣を向けられたとき。
そのときにこぼれたあの「裏切り者め……」って唸り声が、ロレンツォの人間らしさを表している気がして……
ロレンツォってきっと、レオナルドのことを愛してさえいたと思う。稀代の天賦の才能。──ある意味では、自分と同じくらいのクラスに置いていたかもしれない。
けれど、そんなレオナルドが、グイドやパッツィみたいな凡庸で陳腐な人間が宣う「神」とやらの戯言に手を貸していた(ように勘違いした)。
その事実がロレンツォをすさまじく失望させたんだろうなぁ。考えすぎだろうか。でもそう思ったんだもの、仕方ない。
グイドやパッツィ、ジュリアーノに向ける憎しみよりレオナルドへと剣先が尖って見えるのは、そういう理由もありそうだなぁと思う。もちろんカテリーナという要素もあるけれど。


ところで、そんな流れをぶった切るようなロレンツォ様のかわいいポイントその2がここで見られます。
パッツィと刺し違えてから、グイドを殺して二度目に倒れ伏すところ。この!!ここで!!!マントにくるまってちょこんと伏せるロレンツォ様が!!!!!非常にかわいい!!!!!
バタッと倒れるでも大の字に天を仰ぐでもなく、マントに隠れるようにして丸くなるロレンツォ様……めっちゃかわいいでしょ……??お昼寝みたいじゃん……
えっ……かわいくないですか??わたしはとてもかわいいと思いました!!!!!


さて、ロレンツォ・デ・メディチは人並み外れた才能と野心、それから幸運に恵まれているので、刺傷を三つくらい負っても全然に生きているのであった。
しかも以前と変わらず飄々と、女性を侍らせつつ……とはいえ失礼ながら、彼女はカテリーナの代替ではないんだなぁ。芸術品ではない。なので、正妻せーこさんも余裕。
そうしていつもの日々に戻った──かのように思いきや、レオナルドが置き土産にラ・ジョコンダを持参した瞬間から、ロレンツォの「なにか」が変わる。
ロレンツォには見せたことのないカテリーナの笑み──口角ではなく、頬がふわりとゆるんだ自然な笑み。
それは本当の愛を知ったからだ、とレオナルドは言う。
ここでゆっくりと絵画に近寄るロレンツォの背中が!!!!背中がとてつもなくクる!!!!
悠然と広がるマントとは裏腹に寂しそうな、はじめて喪失感を得たようなそれ。
このとき、きっとロレンツォははじめて「カテリーナを愛していた」ことに気づくんだなぁ……芸術品としてではなく、ひとりの女性として愛していたんだよなぁ……
ここでの表情が(たぶん)上手のSS席でしか見られないのがま~~~たオタクの想像力をかきたてる……そのとき、キキちゃんの麗しいEラインはなにを思っているんですか……
寂しそうな笑みなのか、それとも頬がゆるんだ「本当の笑み」なのか、苦渋の表情なのか。オタクなのでとても考察がはかどる。
キキちゃんのことだから、たぶんまたなんともいえない感情を孕んだ美しい顔をしているんだろうなぁ。わたしはキキちゃんの余韻のある表情に全幅の信頼をよせているので……


この時点で、田渕くんにはいろいろと言いたいことはあった。
サライとかグイドとか、工房のみんなたちとか(りくちゃんのキャラはとてもかわいくてすき!!!)……でも、「メディチの仮面」とこの最後の演出で「まぁチャラかな……」と思い始めていた。
キキちゃんかっこいいし、歌はいいし、豪奢だし。とりあえず贔屓がかっこよかったらチャラになることないですか??私はよくあるんですけど……



しかしこの直後、すべてのマイナスをプラスにブチ上げる事件が起きるのであった──
濡髪、断罪、うっそりとした笑み。
次回「サント」。お楽しみに!!!!!
フィナーレは別腹だ!!!!!!