18列46番で会いましょう

私に好きなだけキキちゃんの話をさせてくれ

百点満点中二十七億点(満点とは)

五月某日、めちゃくちゃに晴れの日である。
眠れぬ夜を過ごし(楽しみすぎて寝るタイミングを逃した)、保安検査場で引っかかりながら(エジプトっぽいいかついゴールドのネックレスのせいだった)、私はついに日比谷の地へと降り立った。
サンライズ日和。超あつい。
日差しのせいで「暑い」のか、テンションのせいで「熱い」のかは、ちょっと判別がつかなかった。

とはいえ準備は万端だった。
ルサンクを読み込み、タカニュやナウオンを見あさり、レポツイを追いまくった。ぬかりはない。ファフォブとMY HEROはあまりの恐ろしさにまだ開封してないけれど、とにかく今回の公演に対して万事ぬかりはなかった。
私は今日、キキちゃんのあの魅力をもう一度確かめるためにやってきたのだ。
気分は二度目の川中島である。赤い河のほとりでもシチリアでもなんでもこいや!!!オラ!!!
そうして私は、いざ11時30分の公演へと挑んだのであった。



──結果、惨敗だった。
むしろナレ死だった。あっさりだった。
キキちゃんの魅力に一切抗えなかった。手も足も出なかった。勝つとか負けるとかの問題ではない。土俵にすら上がらせてもらえなかった。オペラを下ろす隙すらなかった。
そうしてクリアポーチを会計する列に並びながら、私はふと気づいた。
そもそも抗おうとしているのが間違いなのでは?これは勝ち負けの問題ではなく、神の施しを受け入れるか否かというレベルの話なのでは?
レジでポケカレを追加するよう頼みながら、私は悟った。
雷雨に対して鎧で立ち向かう人間がいるだろうか。竜巻に対して剣で歯向かう人間がいるだろうか。すべては人間の遠く及ばないところからの衝撃であって、それに人間ごときのちからで対峙するのはむしろ不敬なのではないか──
「芹香斗亜」という稲妻レベルの天啓に抗おうなどと、笑止千万。頭のなかで美穂圭子先生と白妙なっちゃんとせーこさんが高笑いしている。
わんわんこだまするその歌声に煽られながら、私はきれいな白旗を振ることに決めた。いやもうずっと前から負けは決まっていたんだけれど、とにかくもう抵抗するのをやめたのだ。
芹香斗亜に完敗である。乾杯ともいう。ぜんぜん上手いこと言えてないけど、いやもうほんと、お前に盗めぬものはなかったよ……
どこかスッキリした気持ちを抱えて、私は翌日の観劇に備えることにした。完敗ついでに、まかカイルとキキラムセスのクリアポスターを買った。どこに貼るかは決めてない。持ってるだけで強くなれる気がして、買った。



以降は、その稲妻のような軌跡をここに記したものである。芹香斗亜の魅力は、かくのごとくあれり──(音楽が入ってプロローグとなる)


セリ上がる芹香斗亜、まず八億点。
セリ上がりのなにがいいって、顔が見えたときの「おお……」からお衣装が見えはじめて「ひぇ……」ってなってから、全貌が顕になったときの「ア~~~!!!好き!!!」ってなるジワジワ感だと思う。その点、ラムセスのセリ上がりは二回とも本当に完璧だった。
初っ端からギア四速くらいの勢いで「かっこいい」の波状攻撃を仕掛けてくるラムセス、まじで恐ろしい。
ちょっとむっとした感じの眉頭とキキちゃんのうっそりとした三白眼が絶妙なバランスで絡みあって、ラムセスの意志の強さやカリスマ性を感じさせるのもめっちゃよい。五億点。
あとはマントさばきがもうさ……エジプトの風を孕んでいるよね……(?)
太陽の輝きと砂の厳しさと肥沃な国の傲慢さを含んだ立ち振る舞いや目線、すき。ストレートにすき。二億点。
あと俺嫁ソングでひとりの青年っぽくユーリと(ユーリで)ちょろちょろ遊びながら、「次は戦場で会おう」って将の顔して去っていくのズルすぎ……原作のキャラ解釈に沿いすぎ……十二億点……
お芝居だけで百点満点中二十七億点を弾き出す芹香斗亜、まことに最高である(満点とは)


ショーにいたってはプロローグ~夢アモールだけで二十七億点。
内訳としてはお化粧に八億点、足上げから降ろすときの小首傾げ&はにかみに十四億点、銀橋での肩のオラつきに九億点である。全部足したら二十七億点超えてるけどそういうのを気にしちゃいけない。このブログはそういうブログだからです。
いやほんとにひょいっと足を上げてから降ろすときのあの……あのさ……小首を傾げてから\ぱっ/て花が咲いたみたいに笑うのが……いや、ほら……わかって……

そしてそんなふわふわの空気をぜんぶ自分でアダルティに塗り替えてしまうのが芹香斗亜。そう、ドラゴンチャイナ。
あれ下手したら本家本元のダンディズムより顔見えてないっていうのに、シュッとした口元と顎、それからしぐさだけで色気をガンガンに放ってくるのは……なんなんだろうね、あれは……
ダンディズム死を誘発する銀橋でしゃがむところもだけど、一挙手一投足にメリハリというか、タメと抜けがあってさ、ほら……ねぇ!!ねぇ!!??(誰かの肩を揺さぶる)
そうして劇場を支配したかと思ったらまるで別人のようなアマポーラでまた雰囲気を一新させるのもさぁ……
バンダナの角度は攻めてるけど、アマポーラのキキちゃんはPARADISOとは真逆に、まさにしなやかに包みこむような笑顔なのだ。美しいのだ。はい二十七億点~!
そしてふと、ここらへんで私は気づきはじめた。
──芹香斗亜は、セルフ空気清浄機なのでは?と。
なにを言ってるんだろう。言ってる本人もわかってないから、わかってくれとは言わない。でも感じてほしい。
ドラゴンチャイナからアマポーラ、そして後述するノスタルジアから明日エナと、芹香斗亜は己で劇場の空気を塗り替えては洗い流していくセルフ空気清浄機なのでは……と。

ともかくまずはノスタルジアの話をしよう。
セバスチャン、相変わらずエモいの極みである。
マチルドを後ろからうっそり抱きしめるところなんてもうセバスチャンの性格ダダ漏れ
絶対小さなころに飼ってた小鳥と遊んでいて羽根をむしったことがあるような、そんなじっとりした圧を感じる。愛でると囲う、が紙一重のヤバ奴感。なまじ顔がきれいだから余計にこわい。きれい。こわい。エモい。
歓談するセバスチャンの隣でマチルドがヴィットリオを目で追っちゃうところ、その視線の真ん中にさっと割り込んでうっすら笑うのが瞬間最高視聴率を叩き出した。私のなかの定点オペラCSチャンネルでだけど。
「ん?どうかしたの?」と言わんばかりのさわやかな笑み。優しい笑みだよ。私が同じ場所にいたらモンゼット夫人の異名をほしいままにするくらいの悶えるほどの美しさだよ。
でも冷たいの!暗いの!チラチラ燻ってる独占欲の炎がすごいの!そのくせまるで「平熱は34度8分ですよ」とでも言いたげに平静を装う感じ……どちゃどちゃにたまらん……
決闘を申し込むところ、叩きつける前に手袋を見つめるのもよい。そこでセバスチャンのどろどろの人間くささが顕になるのがよい。
勝っても負けてもマチルドのこころは手のうちにはないのにね……激情にかられるうっそりとしたほの暗い美丈夫、私大好物よ……三十八億点差し上げるわね……

そんなセバスチャンで劇場内の空気がじっとりとしたと思ったら明日エナで「キキちゃん!」っぷりを披露してくる芹香斗亜、やはりセルフ空気清浄機である。
芹香斗亜でもキキちゃんでもなく、明日エナは「キキちゃん!」なんだなぁ。「!」が溌剌さ、闊達な感じを表しているのを察してほしい。
あとハ~レル~ヤ!の「ハ」の顔がすきすぎる。
ぺかーっと光り輝く勢いで天真爛漫すぎる。かわいい。いとしい。花丸あげちゃう。いっぱいお食べ。十四億点。
顔といえば、サンライズの「そ~ら~に~はなて!」のところの表情もすごくすき。
「そ~ら~に~」のタメでちょっと眉間にしわ寄ってるのも「はなて!」でほんとにいろいろな光線を放っちゃうのもすき。ぜんぶ刺さった。


そうして身体じゅうのツボというツボに芹香斗亜の光線をぶっ刺されながら、私は漠然と思った。
はやくもう一回観たい。ラムセスのセリ上がりからもう一回観たい。今度は上手から観たい。いや下手も捨て難くない?わかる~!どこからでも観た~い!などと、脳内でひとりオフ会が繰り広げられる始末だった。
いやでも本当にもう一回観たいんだよ。頼むよ。東京出張という要件さえ与えてくれれば、私はどんな手をつかってでも日比谷に舞い戻るから……頼むよ、弊社……弊社ァ……!

やべぇ男にまんまとひっかかったオンナは、ハゲ上がるほど後ろ髪を引かれながらも帰路についた。
まぁ、今回はちゃんと記憶があっただけよしとしよう。激エモでどちゃヤバの、やべぇ男の記憶を大事にしてこれからを生きていこう。このクリアポスターがあるから、私はきっと明日からも元気でやっていける。
いつの間にかなぜか二枚に増えていたクリアポスターと四つ切り写真を抱きながら、私は東宝の席より狭いバスで眠りについたのだった──