18列46番で会いましょう

私に好きなだけキキちゃんの話をさせてくれ

フィレンツェの女Aになるための入門書について

オタクってすげぇな、と思うことが多々ある。
まずスケジュールの調整力がちがう。
来年の予定を組み、遠征の宿をおさえ、時期によって陸路か空路かを選び、そしてそれをきちんと遂行する。しかも出先で急遽打ち上げとかオフ会とかに誘われても、それに参加してスケジュールを適宜変更する適応能力があるのだ。
これはなかなか稀有なスキルだと思う。だって過密スケジュールをこなしているようにみえる世の中の社長とか芸能人だって、あれは他人が管理してるわけじゃん。それをオタクは己ひとりでやってるんだからな……やっぱりちげぇよ……

それからとてつもなく勤勉。
たとえばフランス革命。この歴史の一大事件の発端からなりゆき、そしてどういう最後を迎えたか、況やその後のナポレオンまで理解してるのはヅカオタと一部の識者だけじゃなかろうか???
しかも我々はフランス革命を王家から、庶民から、そしてジャコバン党から学んでいるのだ。
ベルばらでバスティーユを学び、そっと身を引く愛もあることを知り、1789で若き革命家と農民たちのいのちの輝きを受け止め、そしてひかりふる路で革命後のどうともならない愛憎のうねりを呆然と見つめた。なんならスカピンでイギリス側の動きすら、愛革でギロチン送りになる人々のことすら知っている。
……フランス革命概論の優秀生徒か???いやむしろ一部の識者=ヅカオタなのでは????

とまぁこんな具合に、オタクは勤勉なのである。
配役が出たらその背景を知りたいと思い、時代考証をかさね、そこで起きたであろう事件に思いを馳せる。
この前なんか古代エジプトにいたと思ったら第二次世界大戦のパリにいたし、気がついたら天草に飛んでいた。オタクの知識はワールドワイドだ。

そして例に漏れず今回も、ルネサンスについて──とくにメディチ家について──学んでいる最中である。
いやもうはかどるはかどる。だってオタクなら絶対誰しも好きだった名家じゃないですか、メディチ家って。
オタクウケ世界三大名家はメディチ家、ロマノフ家、ボルジア家でしょ?????(あまりにも塩野七生


というわけで、わたしが絶賛勉強中のテキストを一部ご紹介したいと思います!!!
堅苦しくなく読みやすくて、なおかつ宙組子の役が結構出てくるやつ。たぶん初日に間に合う分量のやつ。
もしメッチャ暇で暇で仕方ないわ~~~メディチ家のことはwikiりきったわ~~~ってときに、気が向いたら読んでみてください。


※いずれも小説
※主なキャストは登場率の高い順


「春の戴冠」辻 邦生(全4巻)

春の戴冠〈1〉 (中公文庫)

春の戴冠〈1〉 (中公文庫)

【主なキャスト】
ボッティチェリ、ロレンツォ、ジュリアーノ、パッツィ、レオ(ダ・ヴィンチ

【あらすじ】
古典学者の卵であるフェデリコは、華の都フィオレンツァに生まれた。フェデリコはアカデミアに通い、友人であるサンドロは工房を転々としながら、老コシモがおさめる美しく豪華なフィオレンツァの街を愛していた。
老コシモの死去後も、若く豪胆なロレンツォのもとで、フィオレンツァは未来永劫その「春」を謳歌すると思われた──けれど枢機卿の叛乱とジュリアーノの死、迫り来るナポリ軍とサヴォナローラの台頭により、フィオレンツァは暗雲立ち込める秋の街へと変わろうとしていた。
その数奇な運命と同じくして、サンドロもまた、美学のもつ魔力と己の理想にからめとられていく──


主人公の目を通して、画家の苦悩やフィオレンツァのもつ華やかさとその光が抱える薄暗い闇が描かれている歴史小説
ダ・ヴィンチはあんまり出てこないけれど、とにかく当時のフィオレンツァの空気感を知りたい!!メディチ家の趨勢を感じたい!!ってときはこれです。絶対これ。
たくさん出版されているメディチ家概説みたいなものよりも、小説なのでよみやすい。日本人作家が書いているので、翻訳された独特の文章が苦手だわ……ってひとにもおすすめです。

ロレンツォ・デ・メディチとジュリアーノ・デ・メディチの華々しい兄弟の描写がま~~~たすばらしい!!!
この方の文章はすごくさらりとしていて美しい言葉選びなので、それがまたこの兄弟の若い溌剌とした空気にめっちゃあってる。このふたりならフィオレンツァも安泰だと思うわよ……でもね……パッツィ家がね……

あとジュリアーノは恋愛、ロレンツォは政治観(勘ともいう)が丁寧に描写されてるのがよい。
史実がどうかは別として、ジュリアーノとボッティチェリが同じ人間を崇拝して愛していたり、またその道ならぬ恋がフィオレンツァの豪奢な祭の裏道で暴かれたりしてね……これをずんちゃんとりくくんで想像したらたまらんやんけ……
そしてロレンツォのその慧眼、時勢のとらえかた、フィオレンツァを支配するに値する男っぷりもまじでよい(まじでよい)
パッツィ家の陰謀でのロレンツォの強さと強運っぷりが、三人称で描かれてるからまたすごい。主人公がメディチ家の人間ではないために、フィオレンツァの市民が彼をどうとらえていたか、がよくわかる。
これをキキちゃんがするの……????やばくない……???エジプトに引き続きフィレンツェの女Aがいっぱい誕生しない???

ただ難点としては、流れが緻密すぎて長いってとこかなぁ……
細かいがゆえにフィオレンツァのこともメディチ家のこともいっぱい得られるんだけど、やっぱり長い……なにせ1巻ではまだロレンツォもガキんちょだからね。ロレンツォ(少年)です(ちなみにパッツィ家の陰謀は3巻)
そしてボッティチェリが美学に悩むところは詩的で哲学めいてるので、苦手なひとは苦手かもしれない……
でもずんちゃんファンやりくくんファンにはぜひ読んでもらいたい!!!!!ふたりとも儚くて美しいから!!!

もっと簡単に読めてエンタメ性が高いのがいいな~~~ってひとは、次の小説を読んでください。
た、たぶんこれはめっちゃひとを選ぶ……だろうけど……


「逆光のメディチ藤本ひとみ(全1巻)

逆光のメディチ (新潮文庫)

逆光のメディチ (新潮文庫)

【主なキャスト】
ダ・ヴィンチ(またはアンジェラ)、ジュリアーノ、ロレンツォ、レオーネ(ロレンツォの従兄弟)、パッツィ、ヴェロッキオ、ボッティチェリ

【あらすじ】
床に臥せったダ・ヴィンチは、弟子に「小説を書く」と言う。彼の回顧録のなかでフィレンツェでの16年間が抜けていることに気づいた弟子は、それを書くのかと問うた。けれどダ・ヴィンチは「小説だ」という。
フィレンツェでの思い出はあまりに美しく、罪深い……だからわたしは、ある少女の名をもって小説を書くのだ」と。
ルネサンスの華開くフィレンツェに、あるひとりの田舎少女──アンジェラがヴェロッキオの工房入りを果たした。彼女はボッティチェリと恋をし、ときに切磋琢磨しながら、その天賦の才能を磨きあげつつあった。
そしてあるとき、アンジェラは天使のように美しいジュリアーノに出会ってしまう。彼を絵にしたい。そう焦がれた少女は、その芸術の才能をもってメディチ家へと接近していく。
儚く清らかなジュリアーノ、そしてそれとは似ても似つかぬほど力強く、怜悧な兄・ロレンツォ。
華々しい兄弟には、けれど、ロレンツォとの権力争いに敗れたレオーネが操る教皇庁からの政治的な暗雲が立ち込めていた。
ジュリアーノに近づくことはまた、アンジェラもその闇に身を投じることを意味していた。



あらすじからお察しのとおり、アンジェラ=ダ・ヴィンチなので、まぁ……ある意味ソドムとゴモラ感はあります。これが読むひとを選ぶ理由。
でも読み込むうちにその違和感(「これまじでダ・ヴィンチ???!」みたいな)は消えていくので、大丈夫かな……わたしはとくに気になりませんでした。よくある話だし。

この小説の魅力は、なんといっても「パッツィ家の陰謀」がメインになっているエンタメっぷり。
正史がどうとかはこの際いい(!?)大体の大筋はあっているし、なによりこの陰謀をめぐるロレンツォとレオーネが最高なのだ!!!!
「異人たちの~」にはレオーネいないだろうけど、これが愛ちゃんだと思うとめっちゃやる気でる。わたしはこれが愛ちゃんだと思って当時読んでました。
ロレンツォに負け、修道院につながれていたレオーネがボルジア家に出会い、それから教皇にまで取り入るさまは見事。しかもパッツィ家の陰謀を経て、それからまたあの……いやもう読んで……ゾッとするほどかっこいいから!!!舞台写真買お!!!(?)

ま~~~た彼らふたりを取り巻くキャラもよい。
ロレンツォの腹心の部下であるアントニーナの冷徹な参謀っぷり、ロレンツォを崇拝する献身的なジュリアーノ、ロレンツォにさまざまな思いを抱きながら奔走するメディチ家の銀行家たち。
レオーネを利用しつつも利用され、メディチ家を追い込んでいく枢機卿とパッツィ家。ここでちょっとお間抜けなキャラがいっぱい出てくるけど、ぜんぶ池田理代子おバカキャラで再生されるから愛しい。

わたしは「春の戴冠」を読んでからこっちにうつったので、正直ダ・ヴィ……アンジェラとボッティチェリの恋バナのとこはキャラ変かよ!!?と思ったのでそこらへんは微妙です。りくくんファンは絶対「春の戴冠」のほうが好きだと思う。
でもそれを補ってあまりあるほど、パッツィ家の陰謀にいたるまでの流れと暗殺当日のダイナミックで劇的な描写がすごい。
暗殺当日、ジュリアーノが死んでロレンツォが傷を負う。それからの陰謀に加担した者への猛追、フィレンツェ市民への扇動、逃げるレオーネ──
たった一日のうちに緊迫した展開が繰り広げられるので、映画を観てるみたいな感覚。
きっと「異人たちの~」でもひとつの舞台装置になるであろうこの事件だけを知りたかったら、全然こっちで大丈夫だと思います。

あとこの方は「ブルボンの封印」「ハプスブルクの宝剣」を書いたひとでもあるので、そういう意味でも田渕くんもしかしたら……と思わないでもない。田渕くんの描く政治劇が好きなので、もしこんな感じで進むなら最高だな……



以上二冊が、軽く読めてなおかつ初日までにテンアゲできる小説かなぁと思います。
正史かどうかなんか気にしちゃならねぇ。この世はエモさがすべてだ。その点でいうと、この二冊はエモい。
美しく儚い兄弟とフィレンツェを知りたいひとは「春の戴冠」、劇場型兄弟とキャラの濃いヅカ的フィレンツェを感じたいひとは「逆光のメディチ」をぜひご一読ください。
勤勉なオタクのみなさまの一助になれたなら幸甚です。

……あ~~~たのしみ!!!!!こうして考察してるときがいちばん楽しい!!!!!そして初日が開けたらまたいっぱい考察しちゃうんだろうなぁ……オタクの性だなぁ……
もちろん白鷺も考察しますよ。キキちゃんは陰陽師かな??狐かな??博雅みたいに人間でもいいよ~~~キキちゃんならなんでもいいよ~~~(本音)

お金はいっときの支出、贔屓は一生の思い出

いや、文明というのはいいものですね。
思い立ったときにすぐ連絡がとれるし、飛行機の予約もできるし……文明の進化によって、人間の機動力は格段に上がったといっても過言ではない。
かくいう私も文明の発展を享受して、行って参りました。
え、どこにって?いやいや、野暮なことは聞かないでくださいよ。東京の巴里に決まってるじゃないですか。

……というわけで、結局行ってしまいました。ええそう、パレスホテルですとも。
もう「思い立ったが吉日」という言葉はオタクのためにあるとしか思えない。堆く残ったいろとりどりの〆切と社会的な信用、それから底を尽き果てた口座を対価に東京へと参りました。
まぁたしかに、こう対価を並べ立てるとなかなかな代償を払ってるように思えるだろうけれど、なんてことはない。
キキちゃんのあのきらめきを浴びられるのなら、こんなに安い対価はない。そう、激安である。むしろタダでは??
それではさっそく巴里祭後半戦、お付き合いください。


<前回までのあらすじ>
もう何年も前の話だ。
ある夕晴れの日、私はシャンゼリゼ通りに佇むトレンチコートの男性を見かけた。もちろんそれはパリではよく見る格好だったけれど、私はどうしてか、その男が気になって仕方なかった。
彼はマロニエの木によりかかって、なにかをしきりに書きつけている。ひょいと覗いた手元には、古びたくしゃくしゃの紙があった。もう隙間なんてないくらいに文字で埋めつくされているというのに、彼はそれにも構わず言葉を刻んでいる。構わず――というより、気づいていないのかもしれないが。
ふと、枯れた秋の気配を孕む風が、ふわりとアブサンのかおりを運んできた。
それはきっと男のものに違いなかった。彼はおそらく詩人で、ランボーヴェルレーヌに憧れ、そしてお決まりのようにアブサンを崇めているのだ。
私はその、詩人たる者たちの「退廃」に対する憧れについて、かねてより甚だ疑問に思っていた。
なるほど彼らが命を削って生む言葉は美しく、清々しいほど純粋だとも思う。けれどそれらはあくまで偶発的なものであって、わざわざそのために酒や薬などに溺れる破滅思考は理解しがたかった。
(中略)
さて、安価な酒に頼った彼から生み出される言葉は、いったい誰に響くのか。物憂き恍惚、けだるき愛――きっとアブサンなど口にもしない瀟洒なひとたちは、それを好むのだろう。
けれどそんなものより、もっと簡単な言葉があるはずだ。みんな等しく持っている、美しくシンプルな言葉が。
そう――たったふたこと、愛していると言うだけでいい。
少なくともそうすれば、彼の恋人は救われるだろう。
くすんだ光を放つ薬指を見やりながら、私は彼を追い越した。

(Duma Ar Mor『巴里の詩人たち』より)


舞台は夜の帳が下りたパリ。
ムーランルージュの名曲たちを歌い終わった宙組子が、舞台のうえからバッと会場後方に手を差し伸べる。
え??なに??なにがはじまるんです??
長い手に促されるまま後ろをぼうっと振り返ったら、そこにスポットライトが\\\カッッッ///って当たって……いや……もう……心臓が口からこぼれおちたよね……
ギラギラのキキちゃんが!!!!メッチャ近くの扉から登場した!!!!!
ライトを反射してキラッキラに輝くお衣装に負けない美しさが会場を練り歩くのはほんとうに……心臓に悪い……
あの至近距離でキキちゃんのきらめきの欠片を浴びられるなんてほんと安すぎない??やっぱりタダなんじゃない??もっと払わせてほしい。


しかもお歌が「Up Where We Belong」というガチな選曲。
愛と青春の旅だち」の名曲がムーランルージュで使われていたのもさることながら、またこの「愛と青春の旅だち」でキキちゃんは新公主演&演出は生田先生だった……というから本当に奇跡。
私ですらめちゃくちゃ感動したので、あの当時からキキちゃんを応援してた方々にはきっとたまらなく幸せな一瞬だったと思う。生田先生もキキちゃんもニクいぜ……
そうしてそれを歌いながらまた客席を練り歩いて舞台まで戻るんだけど、mon dieuとはまたちがう、なんかすごい……若さのきらめきを感じた。
「遠い空に見えるものがある」「泣いている暇はない」とかの、歌詞の力もあるのかなぁ。のびのびとした、弾けるような歌声がすごくよかったです。

※ここでトークコーナーを挟んだわけですが、案の定ろくに覚えてないのでゆるしてください。情状酌量……いや、なんとか執行猶予つきで手を打ってください。


さて、そうして「ばら色の桜と白いりんごの花」を思い思いに歌う宙男たち。
ここで「石けりをしてた、私がまだ15の春の日」みたいな歌詞があるんだけど、それをキキちゃんともんちが肩寄せて見つめあいながら歌うところが最高にイイ~~~!!!!同期最高じゃ~~~!!!
それからサビを歌いながら、やにわに宙男たちがぞろぞろと会場に降りてくる。
おや?宙男のようすが……??(ディッディッディッ……)
ハイタッチしながらじわじわ迫り来るナニーロくん、握手しまくりながら会場をかきわけるわんたくん、踊るみたいにたくさんのひとと握手していくゆいちぃ、そしてかみつくように目線を合わせて歌うもんち……
いやなにしてくれてんねん!!!!?
一瞬にして宙男による釣り堀と化す会場。
わたわたする客を弄ぶかのように、宙男たちはじいっ……とひとりひとりを見つめながら各サビを歌いあげる。
鬼かよ!!!いやありがとうございます!!!おひねりを!!!こしらえさせてください!!!!
ひとしきり会場じゅうを焦土に仕上げてから舞台に戻っていく宙男たちの背中は、ろくでもないパリジャンの危険なかおりをまとっていました……(生き残りのDさん/兵庫県、20代)


安心するのはまだ早い。
ここからは宙娘の一転攻勢である。
わたし娘役ファンだから宙男の客席降りとかヨユ~~~☆なんてタカをくくっていたら、その隙をせーこさんやもあちゃんに突かれるぞ!!脇をしめろ!!巴里祭に安寧の地はない!!!(?)
そうそう、私はこの「ジャヴァ」からの流れがとてもはちゃめちゃにすきです。生田くんありがとう。とても刺さる。
宵闇のモンマルトルに迷い込んでしまったららちゃんが、怪しげな宙男や婀娜っぽい宙娘に翻弄されるんだけど、その演出がとてもよい。
逃げ惑って舞台を右往左往するのにゆいちぃやナニーロくんに手をとられると熱に浮かされたみたいに踊ったり、あわてて身体を翻して後ずさりしたらそこでせーこさんが待ち構えてたり……
細かな演出が巧みで舞台を広く見せてるんだなぁ~~~ぜんぜん小さく見えなかったもんね。
生田くんはやくショーつくろ……私に金と権力がないばっかりに待たせてごめんね……


そして「ジャヴァ」のあとにはじまるのが「カナリア」。
これがね~……あのね……ッあ~……ほんとね……(♪言葉にできない)
俗っぽくて簡単な言葉を使うなら単純に「キキららの百合」なんだけど、とてもそれだけでは言い表せない美しさと耽美さがあったなぁ……このカナリアを見られたことを私はきっと痴呆になってもうわ言のように呟くだろうな……
舞台に取り残されたららちゃんの視線の先に、黒衣のレディ・キキちゃんが登場する。いや、レディ・キキちゃん様だな。キキちゃん様。
黒羽根がふんだんに使われたマーメイドライン風の衣装に身をつつみ、前下がりボブを左耳にかけたキキちゃんが、ゆっくりゆっくりららちゃんのもとへと近づいていく。

ららちゃんは彼女――この生物学的な表記が正しいのかどうか、いまだにわからない。なんせもうなんらかの擬人化のごとき美しさだったので――に目を奪われ、翻弄されるのだ。
この「カナリア」、なにがやばいって歌詞と振り付けの妙である。
「いちばん夢を見てた人のことを教えて、いちばん恋をしてた人のことを教えて、いちばん大好きな人の名前打ち明けて」!!!!!???!?
そう歌いながらららちゃんをうしろから囲い、目をそっと隠すレディ・キキちゃん様。いやたまらんでしょ。最高でしょ。
耽美なんだけど下品すぎず、あっさりせずとも濃くなりすぎない……という絶妙なバランスが、キキちゃんの歌と生田くんの演出で成り立っていたように思う。
だってカナリアのあんな百合演出、濃くしようと思ったらどこまででもいやらしくできるもん。
でもそれをせずに、なんかこう……「ハレ」の少女を翻弄する「ケ」である宵闇の擬人化っぽく完成されているのはキキちゃんならではかなって。むしろクセがなく、淡白なほどに美しいひとにしか出来ないことだろうなぁとしみじみ思います。


そうしてららちゃんを解放したあと、キキちゃんがエディット・ピアフの「padam, padam」を絶唱するわけだけど……
「わたしを指さす」であのすらりとした指で己の身体を指さして下っていく振り付けが最高でしたね。
切迫してるけれどそれを楽しんでいるような、追い詰められているけれどむしろ追い詰め返しているような、かすかな焦燥と隠した余裕がないまぜになった歌い方がめちゃくちゃツボだった。
欲を言えばBメロ(?)の「十把一絡げのキス」「おまえの恋人たちを思い出せ」みたいなところも歌ってほしかったけど仕方ない。まだ黒い鷲も残ってるからね。仕方ない。

レディ・キキちゃん様と入れ違いに、がらりと雰囲気を変えた宙組子たちが「ラ・マルセイエーズ」を歌いながら現れて、そして「華麗なる千拍子」へとうつっていく。
そこでキキちゃんが!!!肩羽根モフモフで!!!現れるわけ!!!!
THEスター!!!いらっしゃい!!!!おめでとう!!!!ありがとう!!!!(???)
いやもう、あまりの神々しさに目がちかちかした。きらめきの微粒子が目に染みて涙が出た。
またこの「華麗なる~」がどんどんアップテンポになっていく楽しい曲で、それを軽やかに歌い上げるキキちゃんが最高に輝いてたんだなぁ……
きらきらな笑顔を絶やさず、かなりの早口でも舌をもつれさせることなく音程もブレずに踊りながら歌うのほんとすごいと思う。
歌や踊りのどちらか一方に必死になるでもなく、すべてに神経を払いながら、それでも楽しそうに輝いて魅せるのはまじで並大抵の努力ではできないでしょうよ……
全方位欠けることなくそつなくこなすのって、実は図抜けた特技があることよりもすごく大変なことだと思う。全科目平均点以上をすらりとおさめることが、どれほど優秀かってことですよ。
国公立のセンターみたいなもんですよ。キキちゃんは偏差値が高いんだ!!!!(※今期最高に訳が分からない結論)



そしていよいよ「黒い鷲」。
これはね……あの、まず私が「黒い鷲」にどれほどの思い入れがあるかを語らねばならないわけでね……ちょっと長くなるんですけど我慢してくださいね……
「黒い鷲」はご存知のとおり「レヴュー誕生」のフィナーレの曲で、なおかつ私の元ご贔屓もめちゃくちゃ大事にしていた。だから、他組でトップに就任したにも関わらずサヨナラショーでも歌った。しかもちょうどそのころ私自身の生活もいろいろあって、そのときにずっと聞いてた曲でもある。まぁ、最後のは個人的な話だけど。
いやもうだからほんと、ファンにとっては生半可な気持ちじゃ聞けない曲だと個人的には思ってるんですよ……ってもうめっちゃわたし気持ち悪いな???こじらせすぎてるな???でも神格化するのも許してほしい。最初の贔屓ってそういうもんだから……

で、「黒い鷲」は私にとってそれくらい大事な曲だった。
それを、キキちゃんが――今のご贔屓が歌う。こんなもの宝塚ではよくあるただの偶然なんだけれど、もうこの奇跡に感動せずにはおれなかった。
しかもキキちゃんが大切そうに歌い上げてくれるもんだからたまらなかった。
この曲にどんな背景があるかとか、どんな思い入れを持つ人間がいるかとか、そんなことはどうでもいい。
ただキキちゃんがこの曲を気に入って、自分なりに解釈して、そして自分の歌のように歌ってくれたことが嬉しくてならなかった。いや本当にありがとうございます。
すごく澄んだ表情で歌いきり、それからくるりと会場に背を向けて、胸を張って舞台を降りていく。その後ろ姿すらなんかもういろんなものと重なってえも言われぬ……エモ……エモみが……
……ッはァ~~~いやあらためて自分気持ち悪!!!くっそ気持ち悪い!!!!
思い入れが強すぎて天気以上に不快指数が高い!!!!でも言わずにおれんかった!!!!元ご贔屓もキキちゃんもすきだ!!!!!以上!!!!


――さて、以上が私の巴里祭のすべてである。
正直観たひとにしかわからないような、いやむしろ観たひとだって困惑をきわめるような感情のダダ発露で申し訳がない。
けれど、これだけは言いたい。言っておきたい。
いずれの先人たちもすでに言い古していることだけれど、そう……
あなたの贔屓が巴里祭に、いや、ディナーショーに出ることがあったなら。
もしそんな機会に恵まれたなら必ず行け!!!!!!!!這ってでも行け!!!!金ならなんとかなる!!!!!
お金はしゃかりきに働けば取り戻せるけど、贔屓の至近距離のきらめきはあの一瞬しかないのだ!!!!!
だから行け!!!!!
Catch ticket if you can!!!!GO!!!!Girls Be Ambitious!!!!!YES!!!!

もし行くのを迷っているひとが近くにいたら、私はリングサイドの丹下段平のように、ベンチの星一徹のように声高に叫ぶだろう。いまだ、と。いずれも酒浸りのクソ親父ではあるけれど、まあ勢いは似たようなもんだ。
ただし、ディナーショーに行ったあとのこころの不安定さとか日常生活に支障を来たす妄想とかまでは責任を負いかねないので、あらかじめご了承ください。
現にわたしはいまでもこころを巴里に置いてきたままです。もし巴里にころがっているなんかこう……俗っぽくて汚い心臓があったらそれは私のものなので、そっとしといてください。
きっといつの間にか消えてしまって、そうして今度はフィオレンツィアにころがることでしょう。レッツ・ルネサンス


※記事途中にあります引用めいたあらすじは完全に捏造および空想のものなので、決して探そうとはしないでください。探してもないです。ある意味でノンフィクションです。

<好評発売中♪>パリの一日をシャンソンで彩るツアー

☆★☆人気のセーヌ河を二日かけて反復横跳び!右岸と左岸をどちらも楽しめるお得なツアー!☆★☆
モンマルトルからシャンゼリゼ通りまで、パリの魅力を一気に堪能できます。この機会にぜひお申し込みください。

開催日:7月16日~17日、30日~31日(開催日限定)
最少催行人数:10名
行程:黄昏のサンジェルマンデプレ~夜のモンマルトル~朝靄のシャンゼリゼ通り(詳細後日、いずれも徒歩)
集合場所:現地
解散場所:現地


……いやいや、ハードすぎるでしょ。
左岸→右岸→左岸て。素人の行程かよ。別にダブルブッキングした部屋があるわけでもなし、さしものパン・ワールド・ツアー・エンタープライズも真っ青の「闇ツアー」である。
だがしかし、この難行程を可能にする旅行社がひとつだけ存在するらしい。

──そう、巴里祭である。
有名なシャンソンや宝塚に馴染み深いフランスの楽曲でパリの魅力を語りつくすこのツアーコンダクターを、今年は芹香斗亜がつとめるという。
きっと難行程をものともせず、パリのすてきな一日を夢見させてくれることだろう。
セーヌの河岸でパステルカラーのジャケットを翻すパリジャンも、仕事をサボって煙草をふかす不良なギャルソンも、恋したひとの姿を一心不乱に描く売れない画家も。そうしたパリの街に息づく人びとを、きっと鮮やかに披露してくれるに違いない。


というわけで、巴里祭に行ってきました!!!!(唐突な暗転)
冒頭、阪●交通社の真似してツアー詳細とか書いてみたけど秒で飽きてしまったので、以下はふつうに巴里祭の美しい思い出の備忘録です。
いやもうほんと、今回はさまざまなご縁にめぐまれてHHI開催分に三回とも参加することができました……本当にありがとうございます……あとうちの両親もこのタイミングで私を生んでくれて本当にありがとうな……万物に感謝……
たくさん歌ってたくさんきらめきをふりまくキキちゃんを堪能できてめっちゃ幸せです。THE王道の巴里祭!!って感じで、生田くんの趣味が顔を覗かせつつも素敵なレビューでした。
あと輝きとかきらきらとか、そういうものを可視化したのがキキちゃんだと思っていた私の考えが立証された感があります。わりと真面目に。凡人でも夢を買えるように具現化してくれてありがとう……万物に感謝……

まだまだパレスホテルが残ってますが、とりあえずいまのこのどうしようもなく迸るパトスを感じてもらえると嬉しいです。
そしてみんなキキちゃんをもっと好きになったらええねん。気になりはじめたらええねん。それでええねん。


※多分にネタバレを含みます。あらかじめご了承ください。しかもなんと、まだ前編です。


まずセットが豪華~~~!!!
私が寝る間も惜しんで予習していた巴里祭たちは、結構ふつうの平場にフラスタ(?)が何本か立っているだけだったのに……なんだかとってもバウ公演のフィナーレみがあるセット。奥行がすごい。生田くんの気合を感じる。

そしてその豪華なセットに負けないくらいの客席。
……ここはロイヤルファミリーの結婚式か??それかステージスタジオはお衣装のレンタルでもやってたのか??
なんかもう滲み出る気合いが違いすぎて私は恥ずかしくていっそ素っ裸になりたいくらいだった。ならないけど。
とにかく客席もとってもきらきらしてて眼福の極みだった。たぶんこの二日間、あそこは日本でいちばん華やかな宴会場だったと思う。

──そしてそう、これである。

一見そうは見えないけれど、これは紛うことなき凶器であった。
後述するが、これのせいで私は三回死ぬはめになる。
※なおそのため、この記事はアナザーワールドから投稿されています。



目の前に鎮座する凶器に今世紀最大のBPMを刻む心臓をよそに、ついに巴里祭の幕が上がる。
聴き慣れたラ・マルセイエーズとともに、上下からきらきらと弾けながら飛び出す宙組子たち。かわいい。輝いてる。
そして満を持して登場したのがそう……ど真ん中でピンスポを浴びる芹香斗亜~~~!!!!!!!
勝ち!!!!!もう勝ち確定!!!!優勝!!!!おめでとう!!!!(?)
ポスターと同じような真っ白なお衣装に身を包んだ芹香斗亜のきらめきが眩しい……目に痛いはずなのに心が幸福すぎる……
私は男役のパフスリーブに弱いのだ。それが白できらきらしてて贔屓が着てるとなったら無抵抗で軍門に降るしかない。もう好きにしてほしい。

ラ・ヴィ・アン・ローズをかろやかに歌う芹香斗亜なんて、もうパリの擬人化では??パリじゅうの恋人では??シャンゼリゼ通りあたりに10m間隔で像でも立っているのでは……??
それくらいの美しさなんだけれど、でもなんかこう畏れ多いほどの美というより、柔らかくてあたたかくて陽の光みたいな……青空に手を透かしたときの清々しさ、晴れやかさを感じる美しさ……なに言ってんだろうな私……

それからラ・ヴィ・アン・ローズもメケ・メケも、手の振り付けが最っ高に粋!!!
キキちゃんの細い手首や長い指先がめちゃくちゃ堪能できる、子気味いい振り付けが最高。とくに「メケ☆メケ☆」ってテンポに合わせて顔の横でキラって……ウッ……かわいかった……
いやほんと今回の巴里祭とおしてすべてに言えることだけれど、お衣装も構成も振り付けも最of高with最高だった。これが映像に残って毎年七月に見られるのはありがたい。万物に感謝。
あとメドレーの最後が愛の讃歌だったんですけど、このときのキキちゃんがもう……きらきらしすぎてて消えてしまうんじゃないかと思うくらいに煌めいてた。
ペカーッ!て後光が射すような強い煌めきというより、すっごい極小な光の粒がふわふわと舞ってる感じ。
オーロラ……いや違うな、ベール……あっそうベール!!!!きらめきのベールをまとってた!!!(伝わらない閃き選手権)

そうしてシャンソンメドレーを歌いまくり、せーこさんたちのお衣装替えのあいだに男役みんなで巴里祭のコンセプトを教えてくれるタイム。
ここで毎回ゆる~~~っとしたふわふわ空間になるの本当に宙男の屈託のなさが全開でかわいかった。まったりタイム和む。
冒頭で私が阪急●通社の真似をしたように、今回の巴里祭は「パリの一日」をテーマにしているもよう。恋人たちの午後、黄昏の詩人たち、歓楽街の夜、それから宵闇の夢想を経てパリの夜明けへ……といった感じ。
ここのセーヌのくだりで必ず小ネタがはさまれてたのが面白かったので、詳しくは皆さんのツイをご検索ください。私のぽんこつ海馬では宙男たちのかわいい姿しか記憶できなかったので……
あ~~~でもわんたくんがセーヌ河の行ったり来たりを武庫川に例えてるやつ(要検索)、ラス回のはメッチャ共感した!!

キキちゃん「ちょっと忙しいんですけど、セーヌ河をあっちからこっちに行ったり来たりしてもらって……」
わんたくん「はいッ(勢いのある挙手)」
キキちゃん「はい?(もうすでに笑ってる)」
わんたくん「こういうことですよね?久々に宝塚を観て、芹香さんにズキューン!!!!!……で、意識朦朧としながら南口に向かってたら、『あっ!そうだ!』ってキャトルに引き返してDVDや本を買いまくるという……」

わたし「(めっっっっっちゃわかる~~~!!!!!)」みたいな。
とくに意識朦朧としながら~のくだり最高に実体験だった。わかりボタン24812795連打した。ありがとうわんたくん。

で!!で!!!
お着替えがおわって登場したシャンソン人形の宙娘たちが!!!めっちゃくちゃかわいかった!!
あれが萌えだな……いや本当に鬘も振り付けもすごいかわいかった……とくに「♪わたしはときどきため息つく~」「ほぅ~(ほっぺに手のひらをあてる)」のくだりのかわいさオーバーゲージでした。思い出してはニヤける。

そしたらそのかわい子ちゃんたちをナンパしにさぁ、パリの男どもがやってくるわけ……
「Salut!」「ca va?」とか言いながらギャルソンや軍人、画家たちが上下から飛び出してくるのだ。みんなイケメン。相変わらずパリ大勝利。
でも、宙娘ちゃんたち五人に対してイケメンが四人。足りない。奇しくも余ってしまったららちゃんが拗ねてどっかに行った……と思ったら、下手から駆けてくる優男がひとりいるわけさ……そうさ……芹香斗亜さ……
あざやかなブルーのジャケットに紅色のスカーフ、ミルキーホワイトのパンツのキキちゃん最高にTHEパリジャン。セーヌ河にいそうだもん。なんかバゲット抱えてカフェオレのカップ携えてそう(偏見か?)

そしてららちゃんが戻ってきて、やっとふたりでデュエットするわけなんだけど……なんかめっちゃいい雰囲気だったのに、キキちゃんが急に浮気をしてしまうわけだ。
客席に降りてきて、なんとお客さんを舞台上にエスコートして公開浮気しちゃう。
いや……あの距離で見つめあって情熱的に歌われつつ手を握りしめられてたらもう……死ぬな……悔いはないよな……
しかもこの芹香斗亜、手をず~~~っと離さないのだ!!!!!鬼か!!!???
初回でお客さんに振り切られて小芝居の途中で席に戻られてしまったからか、二回目からはず~~~っと握ってる。オペラ越しでも分かるくらい結構なちからで握ってた気がする。いや恐ろしい……あなたの手をがっちりホールド……
で、まぁ案の定ららちゃんにバレる。そりゃバレるわ。

それで盛大にブン殴られてからの「ろくでなし」!!!
宝塚でも結構耳にする曲だというのに、あれほどまでコブシの効いたサビははじめて聴いた気がする。
♪ろくでなし~~~じゃなくてもう♪ッろrrrrくっでなし~~~って感じ。巻舌めっちゃツボ。
ららちゃんにブン殴られてふらふらとカフェの席につくキキちゃん、酒をすすめるギャルソンのナニーロ、よぼよぼのキキちゃんを写生しようとするわんたくん……そしてそれを見ながら女子会してるせーこさんたち……いやほんと最高の場面だったなぁ……
女子会に「ヒィッ」てなるキキちゃんも「うわーん!」な顔してカフェのテーブルに突っ伏すキキちゃんも超コミカルでかわいい~~~養いたい~~~!!
息してるだけで毎秒5円あげたい~~~!!!!
ららちゃんにもう一度好きだと言いに行くのに、せーこさんの睨みに負けてすごすごと戻るキキちゃんもよかった。アルジーみやジェラルドみがとてもあった。


そうして、舞台はいよいよ黄昏の詩人たちへと移り変わっていく。
ここ、最高にエモかった……エモいという言葉が便利すぎるので陳腐に聞こえるかもしれないけれど、ほんっっっとうに情緒的で美しかった。
トレンチコートを羽織ったキキちゃんが、カフェの椅子に腰掛けながらなにかを必死に書きつけている。それを見つめながらアブサンを歌うせーこさん。
歌詞からするに、キキちゃんは詩人らしい。たぶん詩人になりきれてもいないような、ランボーヴェルレーヌに憧れている青年。彼らがのめりこんだ安価なアブサンを煽って、せーこさんのことなんて見向きもせずに愛の詩を書き続けている。
せーこさんは愛の言葉がほしい。詩なんていらない。でもキキちゃんはそうじゃないのだ。
キキちゃんがひとり椅子と絡んで踊るところや、せーこさんと向かい合って手を伸ばしたのに完全に視線が絡まないところ(夜のボート的なすれ違い)、歌詞もあいまって切ない余韻たっぷりで美しかったなぁ……大劇場で観たいくらい……
結局せーこさんはたった二言の愛の言葉を囁いてくれるひとのもとへ去ってしまうんだけど、ここの演出が最高だった。
せーこさんが去っていく気配にあわせて、キキちゃんが手元の紙からゆっくり顔を上げていく。その横顔のきれいな影が黄昏どきのライティングに映えて、もうめちゃくちゃ胸にクるものがあった……大劇場で観たい……(二度目)


それからエディット・ピアフのmon dieuを、キキちゃんがソロで歌い上げる。
この流れで感動しないわけがない。
シャンソンメドレーや恋人たちの軽やかな雰囲気から一転して神々しい、重厚な空気感に変わっていく。
一瞬たりとも気が抜けない素晴らしさだった。息を呑むほど、ってたぶんこういうことなんだろうなぁ……
ライトに照らされながら、客席を練り歩いて歌うキキちゃん。mon dieu自体がラスサビに向かってどんどん盛り上がる曲なんだけれど、それにあわせてキキちゃんの声もどんどん伸びていく。低音がすっごく心地いい……歌がべらぼうにうまい……
そうしてついに、客席後方のお立ち台に登るのだ。
本当に目と鼻の先で、喉を反らせて両手を広げて朗々と歌い上げるキキちゃんがいる。
ライトに照らされた汗のきらきらも、透けるような金髪も、マイクを握りしめる細い指も、すべてが目の前にある。
しかもmon dieuのラスト、「あなたはわたしのもの」って歌うんだけど……そこでもう神々しすぎて泣いた。なんかスカステの機材入ってることとか化粧とか忘れてギャン泣きした。
命のきらめきとか輝きとか、そういうのが具現化して目の前に現れている感覚。
本当にくそくそ気持ち悪いことを言うんだけど、なんかほんと……あの……世界にキキちゃんしかいないみたいな……まわりの音も聞こえなかったし、一瞬まじでなんにも見えなくなった。キキちゃんしかいなかった。いやもうくそ気持ち悪いけど……
あの瞬間、わたしは死んだんだと思う。だからまじでこれはあの世からの投稿です。


紫苑の間じゅうに素敵な歌声を響かせて、キキちゃんはジャケットを翻しながら一旦去っていく……んだけど、それから息もつかせずステージのうえにはムーラン・ルージュみあふれる宙組子たちがスタンバっている。
でも本当にごめんなさい!!!ここの記憶がまったくありません!!!!許してください!!!!
目の前にキキちゃんがいた事実を咀嚼するので精一杯だったんだ……私も惜しいことしたと思ってるけど三回ともここの記憶はないんだ……情状酌量してくれ……



──さて、舞台が歓楽街の夜に移ったタイミングで一旦この記事を締めたいと思う。
なぜって?
それはね、後半にかけて怒涛の生田くんの趣味攻撃があるからさ……私がツイッターで夜毎浮かされている「カナリア」「黒い鷲」がついに登場するからさ……そんなんエモポエムを呟かざるをえないでしょ……

というわけで次回、今回よりも長くて気色悪そうな記事をお楽しみに!!!!!!!